超短編小説ー金縛り
金縛り
学生なりに安い旅館を調べた結果、本当にここは民宿なのかと疑うほどにボロボロの民宿を見つけた。私と親友の加奈子は高校最後の旅行として、この1泊2日の旅行を計画したのだった。
なのにだ。
「今日は嫌な予感がする夜だわ」
と加奈子が言った。
「やめてよ。加奈のそう言うのマジで怖いから」
加奈子は、自称だが霊感があるらしい。私はと言えばあまりそう言う話しが嫌いだから、それについてあまり詳しい事は聞いたことがない。
ただ、
「あぁ、そうか」
その話を聞いていたから、それが初めの感想だった。
動かない手足
上がらない首
どうやら金縛りらしい。
苦しげな抵抗、しかし、体の自由は何もきいてくれない様だ。
私はお化けとかそういうのが怖い。大嫌いだ。そう、自分がそんな目にあう場合は、だ。
「〜〜っ〜」
声にならない抵抗をためしているみたいだ。加奈子は、苦しげな顔をしている。
「加奈子大丈夫?」
「〜〜っ〜」
果たして、金縛りの最中の加奈子に私の声は届いているのだろうか?確か、金縛りは意識が半分覚醒した状態で、周りは見えるのに体が動かない、そう言うものだとTVで言っていた。
「〜〜っ〜!!」
「あっ、加奈子?分かる??」
「〜〜っ〜!!っ!!」
試しに加奈子の目の前で手を振ってみるが、どうやら、私の声に反応したものでは無いらしい。加奈子の目は白目ギリギリになるくらい下を凝視している。
「加奈子、その顔すっごいブスだよ?」
私はそう言っていて少し、面白くなってきた。
普段から加奈子は私と違ってとてもオシャレだ。今年で160センチを超えてしまい、そのくせ胸は大きくならない。自信がなくて地味な服ばかり選んでしまう私とは違う。小柄で、顔も小さくてよく笑う彼女が今、寝間着をはだけさせ、私の横で強張った半白目を向いているのだ。
「んー、もしかしてアレかな?」
確か同じTVだった。金縛りの時は気配の様なものを感じやすくて、それに必死に贖おうとするらしい。言われてみれば今の加奈子は自分の足元を必死に覗き込もうとしているみたいだった。それを見て、ふと私はあることを思いついた。
言い訳じゃ無い。ただ、加奈子を安心させるためだ。
プニッ。
私は、加奈子の鼻をつまんだ。流石にこれなら加奈子も気づいてくれるだろう。
「〜〜っ!!」
「かっ。加奈子?ほら、安心して、幽霊はいないよ?私のこと見える?」
よく見ると加奈子の手が、すごいプルプルしている。どうやら加奈子の金縛りはまだまだ続いている様だ?どころか、ちょっと大詰めの様だ。
「加奈子、辛そうね......待ってて、うん、私に任せて」
私は、カバンから化粧ポーチを出し、マニキュアを手に取った。そして......
『肉』
と言う文字を加奈子のおデコに書いた。
「〜〜っ!!〜〜っ!!」
「あれ?加奈子、ますます酷そう。どうしたら......」
どうしたら、どうしたら彼女を落ち着かせて金縛りから解放できるのだろう。私は彼女が心配で仕方ない。決して面白がっているわけではない。
「あっ、そうか。なんで気づかなかったのかな!!」
そんな真剣な思いの末、ようやく私は気づいた。見えるから怖いなら、目を閉じてあげれば良いのだ。
そして、周りを見渡すと、ちょうど良いものが机にある。温泉上がりにこぼしたお茶を拭いた、そう、台拭きだ。しかも、いい具合に乾いている。
「加奈子、これでもう大丈夫だねっ!」
バサリ。
「〜〜っ!!!っ!っ!!!〜〜っ!!」
台拭きで視界を隠した瞬間、加奈子は今までで一番大きな反応を示して、そして、静かになった。どうやら、安心して眠れたらしい。
「あぁ、良かった」
私は、そんな加奈子を見届けて安心して眠りについた。
翌日、私は加奈子に昨夜のことを聞いた。すると加奈子は意外なことを口にした。
「幽霊じゃなくて、悪魔を見た」
そして、なぜか、その後の旅の間、加奈子は全く私と口をきいてくれなかった。
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